トヨタ自動車の、社内DX推進の柱の1つ「市民開発拡大」のための人材育成を支援
背景
「トヨタ生産方式」などの生産管理手法や革新的な自動車製品で世界をリードしてきたトヨタ自動車は、デジタル化を本格的に推進しています。同社デジタル変革推進室 永田 賢二氏は「2021年3月に、豊田章男社長がデジタル化について『この3年間で世界のトップ企業と肩を並べるレベルまで一気にもっていきたい』という考えを示しました」と話します。
デジタル化の取り組みには、社員自らが変革の担い手になるというのも大きなポイントの一つです。「そのためのテーマの1つが、社内の市民開発を拡大することです」と永田氏は話します。市民開発とは、現場に精通した業務担当者がノーコードやローコードなどのソリューションを活用し、自立的にデジタル化を推進することで業務を変革していく取り組みです。
Power Platformの、アプリケーション開発の圧倒的なリードタイムの短さを目の当たりにし「それまでの常識であった、業務アプリ開発のための予算化、計画立案、システム会社への発注、開発という年単位のリードタイムとなるプロセスが覆され、各部署が自らアプリ開発をすることで、利用開始までのリードタイムが劇的に短縮できると思いました」ということです。
永田氏はノーコード・ローコード開発のメリットを最大化するために、担い手である市民開発者を社内に増やしたいと考え、まず、自分自身でスキル習得を始めました。同時に、社内に市民開発の考え方を浸透させる活動を開始。タイミング良く、2020年1月よりトヨタ社内にMicrosoft Teamsが導入され、そこで技術コミュニティを立ち上げました。「最初はなかなか取り組みが浸透しなかった」ものの、2020年6月に大手新聞社の誌面にノーコード・ローコード開発の特集記事が掲載されたことをきっかけに、社内の関心が高まったことが転機となり、永田氏のコミュニティ活動は「全社に広く認知してもらえるようになった」そうです。その頃からコミュニティのメンバーが増え始め、チャットの投稿も増え、有用な情報が集まるようになり、それによって人がさらに集まるというように好循環が生まれ、コミュニティのメンバーが雪だるま式に増えていきました。
ソリューション
コミュニティの主な活動は「技術的なノウハウ共有のための情報発信や、相互支援によるQA対応(コミュニティ参加者が主業務外でボランティア)」です。2021年7月頃にはコミュニティ参加者は3,000人を超え、IT技術に疎い初心者も多くなったため、一部のコミュニティ参加者の負担になるという課題が発生していました。
こうした状況や、全社の活動として受け入れられつつあった市民開発拡大支援のため、情シス部門とマイクロソフト テクノロジーに対する高い技術力を持つアバナードが、技術支援の仕組みづくりを開始することになりました。本プロジェクトを担当したアバナードPower Platform CoE Leadの後藤は「現場における市民開発者の課題を技術的に解決しスキルアップすること」「コンテンツのサンプル化やFAQなどの標準化を推進すること」の2点が支援のポイントだと話します。
社内DX推進のCoE(Center of Excellence)立ち上げ支援内容は大きく次の4点です。1つめはメインとなる「市民開発支援教育」です。Microsoft Teamsによる1コマ30分の1on1形式で行う「現場の市民開発者を支える技術相談会」が行われました。
2つめは、永田氏が中心となって進める市民開発の普及活動の支援、3つめは「ガバナンス支援」です。これは、市民開発者拡大に伴い製作されたアプリの統制などセキュリティ、ガバナンス面での仕組み整備や、ライセンス管理などの支援です。
そして4つめが「拡張サービス」です。これは、市民開発では担いきれない大規模案件など、個別に予算化して進める開発案件を支援することです。こうしたアバナードの支援について、永田氏は「小規模のアプリ開発を担う市民開発者の技術面での底上げと、市民開発で実現できない大規模開発を担っていただけているのは、本当に心強く、ありがたいです」と話します。
成果
アバナードが支援を開始した2021年11月から8カ月後の2022年7月末時点で、技術相談会は1,200回以上開催され、参加者の60%以上が中級レベルにスキルアップ、アクティブな市民開発者数は2,845名にまで拡大する成果を挙げました。
アバナードとの協業を通じたメリットについて、永田氏は「技術力」を挙げます。特に、これまでソフトウェア開発の経験がなかった市民開発者にとって「アバナードはマイクロソフト製品に強く、高いITスキルがあるため、非IT技術者では難しい、データの活用方法やデータベースの構築、システム間の連携まで考慮して支援していただける」点が心強いということです。
今後について永田氏は、所属するデジタル変革推進室の立場から「市民開発者の技術相談会だけでなく、相談会で蓄積したナレッジを共有する勉強会などの取り組みを通じ、それぞれのレベルにあわせた育成の取り組みに大いに期待しています」と話しました。
社内DXに取り組む企業に向けたメッセージとして、永田氏は「自分にとってDXは、山頂というゴールを目指すというイメージよりも、変化し続ける『波』に乗るようなイメージだと感じています」と話します。すなわち「山頂に到着して目標達成ではなく、常に変化する状況(波)に柔軟に対応できる状態を作ることがDXの本質ではないかと思っています」というのです。
永田氏は今後の展望について、市民開発の取り組みを「グループ企業も含めた取り組みを始めつつあり、これから盛り上げていきたいと思っています」と述べました。
そしてアバナードに対し「変革の担い手である市民開発者を育成する支援やDX実現に向けた技術的支援に感謝をしています」と述べました。